衝突事故によって生じた自動車の損傷は、その事故態様についていろいろなことを教えてくれます。
私は、最初に入った事務所において10年ほど、損害保険会社の立場から自動車保険金の不正請求事案を取り扱っていました。たとえば、(1)2台の自動車に別々に生じた損傷なのに、この2台の自動車が衝突した者として、一方の自動車に掛けてある自動車保険の賠償責任保険金の支払を請求してきたり、(2)要らなくなった自動車に車両保険を掛けておいて、わざと自損事故を起こして車両保険金の支払を請求したりする人々が、存在するのです。
2台の自動車が衝突した場合、それぞれの自動車には、それぞれの相手方自動車の形状に整合した損傷が生じます。
(1)のような場合、それぞれの損傷はいずれも相手方自動車の損傷と整合性がないので、保険金請求者が主張するような交通事故は発生していないものとして、保険金の支払を拒否することになります。
(2)のような場合、実際に2台の自動車が衝突しているので、損傷の整合性はあります。しかし、ここからが問題です。
自動車を運転していてブレーキを掛けると、その前端は沈みます(ノーズダイブ)。したがって、ブレーキが掛かりながら相手方自動車の側面に衝突していった場合、相手方自動車には、接触開始位置から下がっていくような損傷が生ずるはずです。にもかかわらず、加害者が「相手方自動車に気づかずブレーキは掛けていなかった」と主張しているならば、その損傷は、保険金請求者が主張するような「交通事故」によって発生したものではないのではないか、という疑いが生ずる訳です。
整合性がある場合にも、「損傷」と「主張」の食い違いを積み重ねることによって、保険金請求が不正である、との判断をするのです。
私は、このような処理を日常的に行っていたため、通常の交通事故であっても、常に自動車の損傷に注目します。
過失割合に争いがある場合は、事故態様に関する両当事者の主張が食い違います。少なくともどちらか一方の主張は、わざとではないとしても、上記(2)の不正請求における状況と同じなのです。
先ほど述べたように、衝突した自動車にブレーキがかかっていれば、その痕跡が相手方自動車に残ります。
損傷の入力角度や、側面のどちらからどちらに損傷が走ったかをみれば、衝突したときの2台の自動車の位置関係や、どちらの方がスピードが出ていたかがわかります。
さらに、損傷の入力角度は損傷の生じた向きに事故発生場所の道路状況などを合わせ考えると、2台の自動車のどちらが相手方の車線に割り込んでいったかということも判明することがあります。
事故態様(過失割合)が問題となっていてお困りの方、一度ご相談下さい。